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『騒音のリリシズム/静寂のプロパガンダ』

『騒音のリリシズム/静寂のプロパガンダ』

詳細

『騒音のリリシズム/静寂のプロパガンダ』ルイジ・ルッソロの騒音音楽に代表される未来派と、ファシスト党の繋がり。あるいは、ヒトラーと音響拡散技術。20世紀前半に力を持った恐怖政治のプロパガンダは、騒音と轟音、あるいはそれを生み出すテクノロジーと共にあった。 プロパガンダは、言葉が意味と解釈の領域から離れ、音それ自体による圧倒的振動として機能するその離陸の瞬間に最も強く輝く。逆に、純化された力としての音声は全体主義政治に対抗するような音楽による政治(例えばセカンド・サマー・オブ・ラブや初期インダストリアル音楽のアナキズム的地下活動)にも見出される。
  
  
ノイズは、あるいは既存の声と意味を超えた音それ自体の力は、それが市民へと伝える破壊的エネルギーは、本来的には当局や個人のコントロールを超えている。 だからこそ、ヨーゼフ・ゲッべルスはモダニズムとしての退廃音楽を抑圧し、アンドレイ・ジダーノフは共産主義革命の同胞であったはずのアヴァンギャルド音楽を裏切った。戦後、50–60年代を中心に、モダニズム・アヴァンギャルド音楽の「正史的」最先端の実践としてのトータル・セリエリズムが半ば無意識に、あるいはポーランド楽派やマイクロポリフォニー、そしてストカスティック・ミュージックが明確に意図して行った伝統的聴取への挑戦。それは近代的聴取、つまり、一音を一音符として分節して認知し、一音符同士の、五線譜で表記されるパラメータ同士の構造的関係を、旋律や和声という形態でもって楽節化し、最終的には全体の形式の相の元に位置付ける、といった(19世紀の思想家たちがそこに近代的国民国家の成立を透かし聴いていた)聴取に対する破壊行為であり、同時に19世紀から進行していた音楽の音響化の全面化だった。
   
   
一方で今日、意味を無効化するものとしてのノイズは民主化され巷にありふれたものになっている。マスメディアの広告轟音劇場という20世紀米国的消費社会をさらに超えた、双方向コミュニケーションテクノロジーの普及による、無数の声の洪水的氾濫。無数の市民の情念が無数のデジタルメディアによって日々祝祭的に爆発を繰り返し、歴史と省察を無効化する。意味は情報と情念の流れに還元され、眠ることなく社会が動く。 このようなノイズの民主化に問題があるにせよ、抑圧されてきた者たちの声を、ただ軽薄と嫌悪し退けて済ますという態度は反動的と言えるだろう。わたしたち音楽家は、世界観なき情念の消費へと頽落した汎-プロパガンダに満ちる社会の中で、逃れがたい騒音にこそ、煌めく一瞬のリリシズムを聴き出さなければならない。わたしたち音楽家は、静寂にこそ内なるプロパガンダの力を、煽動なきアジテーションとでも言うべき衝撃を求め、沈黙と測りあえるほどの音を紡がなければならない。そこでは「芸術音楽」の中に、破壊されつつも統語構造がまだ形を留めていた(それは同時に共同体に意味の疎通の領域が今よりは広く残されていることを指すのかもしれない)1950年以前の「前-前衛音楽」が参考になるかもしれない。1990年代、前衛の正当な継承者たるフライブルク楽派に対立したシュトゥットガルト楽派の「別の前衛」の在り方に何かを見出せるかもしれない。
あるいは前衛と対立するとされたアメリカ実験音楽の音楽家たちと、その異端的継承者である幾人かのノイズ・ミュージシャンがヒントを与えてくれてくれるかもしれない。本ライブは、伏見瞬と灰街令によって行われる。わたしたちは昨年にもジャパノイズとアンビエントをテーマにライブを行った。これはその続編とも言えるものとなるだろう。 音響は灰街令のモジュラー・シンセサイザーの導入によりよって狂騒的に、そしてその構築は伏見瞬のラップへの批評的および身体的関心によってよりリリカルになるだろう。

 

これは声と声にならないものの再定義の試みである。騒音の中のささやかな欲動に、沈黙の中の大いなる力能に、耳を澄ます時が来た。前衛は何度でも甦る。

 

追記(8/4) 出演者の伏見瞬が新型コロナウイルス感染症に罹患したため、本ライブは、両者によって作り上げられたコンセプトを元に、灰街令単独で行われます(既にチケットを購入した方に対しては希望があればキャンセル手続きと返金を行なう旨をメールでお伝えしております)。 具体的には、伏見瞬によるラップ/リーディングのパートを、そのアイデアとリリックに対して、灰街令による解釈と詩作を付け加える形で、灰街令が担当することになります。 オシレーター、声、言葉をマテリアルとした「一つの補綴された身体による電気工学的対位法」を通し、騒音のリリシズムと静寂のプロパガンダを実践します。

 

会場:渋谷SLOTH
https://sloth.salon/日時:2022年8月6日(土)20時〜21時(開場19時30分〜)料金:一般2500円、SLOTH会員2000円チケット購入はこちらhttps://peatix.com/event/3303156/viewFujiko

 

【アーティストプロフィール】


灰街令 (Rei Haimachi) 作曲家/音楽学研究者/(モジュラー) シンセサイザー奏者「特定のsound-Umweltにおける静寂と騒音の分節に対するre(de)-composition」をテーマにコンテンポラリークラシックと電子音楽の分野で音楽活動を行うほか、アメリカ実験主義音楽に影響を受けた日本の音楽を研究している。
 

伏見瞬(Shun Fushimi) ボイス/音楽家/批評家/作家批評家/ライターとしての執筆業/編集業のほか、声やギターを使用したパフォーマンス活動を行う。形式/様式は多岐にわたるが、言語活動に対する興味・関心・執着は一貫する。著書に『スピッツ論 分裂するポップ・ミュージック』(イースト・プレス)、旅行×批評誌『LOCUST』編集長。
 
 
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